
VIVA!GREAT WALL
こんばんは。さるぼぼ父です。
アメリカ合衆国とメキシコ共和国の国境を堅牢にするのはとても良いことです。
ドナルド・トランプ大統領が就任早々メキシコ国境の壁をメキシコ国家持ち予算で建設する、と表明しました。
1836年。アメリカ国はテキサス国を手に入れ、メキシコ国カリフォルニア獲得を目指した。「フロンティアへ!」
『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』という本を紹介しようと思う、としばらく前に書きましたが、まだ全部読み終えていません。
読み終えた部分に、いま話題のアメリカとメキシコの国境の問題について、関連のある記述がありましたので、その部分の紹介です。上巻の第8章になります。

1821年にメキシコがスペインから独立します。被支配者の反抗運動から始まり、リベラルと保守勢力同士が手を取り合って勝ち取ったという奇妙な独立です。当時のメキシコ国土は、現在のアメリカ合衆国のテキサス、ニューメキシコ、ユタ、ネバダ、アリゾナ、カリフォルニア全州を含み、さらにはコロラドとワイオミングの一部をも含む、とんでもなく広大なものでした。
1836年、メキシコの国土の一部テキサスが独立してアメリカ連邦に編入。ここからアメリカの西域拡大が始まります。いわゆるフロンティアですね。西部開拓です。わたしたちもジョン・ウエインの主演映画でさんざん見せられました。
このときにスローガンとなったのが「カリフォルニアへの道」そして「ますます増える移民たちのために土地を獲得することは天命なのだ」というものです。
これこそが今もかわらないアメリカの覇権主義の根源にある考え方です。
生きづらい欧州の社会から理想の生活を求めて旅立ち、約束の土地を手に入れてそこで繁栄を勝ち取る、というストーリーです。
聖書の解釈毎にバリエーションがあり、それがアメリカの諸理念に発展します。宗教的信条やイデオロギーを脱色すれば、これがアメリカンドリームというやつです。
1846年。リオグランデまで兵を進めていたアメリカ軍将校の一人が行方不明になります。これを端緒にアメリカ軍とメキシコ軍との緊張は一気に高まり、アメリカ議会は宣戦布告、これは時の大統領ジェームズ・ポークが最初から意図したことでした。
ソローとホイットマンとの考えの違いが、そのまま今現在のアメリカの“内なるたたかい”である。
詩人ローウェルは反対して反戦の詩を書きます、作家ソローも反対、のちに『市民の反抗』として有名になる論文を書くことになります。一方ホイットマンは宣戦布告賛美の詩を書きます。
ソローの論旨はいまでも大変参考になる立派なものです。
<兵士たちは内心良識と道義心を抱いているが、法を守ることで戦いに挑む、つまり不正義を実行する。法は人を正しくするものでない>
一方のホイットマンはこうです。
<アメリカは拡張するだけでなく、圧倒するのだ>
ベトナム戦争時代、アメリカの高度な知識教養を身につけた大学生たちは、ホイットマンの「草の葉」をリュックサックに忍ばせて戦場に赴いたといいます。
自らに矛盾を抱えたまま戦場に向かう若者を納得させるに足るだけのものをホイットマンの詩篇は持っていたに違いないです。
ドイツの若者にとってはハイデガーの「存在と時間」がそうであったように、自分の死を納得させるためのヨスガのようなものとしての書物が「草の葉」でした。
これはアメリカに移住した白人にとっての新・新約聖書でしょう。ここにきてはじめて、アメリカに「文化」のようなものがたちあらわれるのです。
「土着」していた赤い人たちと黒い人たち。荒稼ぎにきた白い人たちと逃げ着いた白い人たち。買われてきた黒い人たち。
アメリカ合衆国は北側でカナダと接していますが、アメリカとカナダの国境がさほど問題にならないとうのは、なんとなくわかります。
アメリカ合衆国はもともとイギリスの植民地、カナダはフランスの植民地です。色が白い人たちで、大体キリスト教関連です。原住民は赤い人たちで、今は限られた場所に追い込まれて住んでいます。
一方のメキシコ共和国はもともとスペインの植民地でした。
赤い人たち、黒い人たち、白い人たち、入り乱れています。キリスト教でもここらはカソリックが主でしょう。イスラム教もマダラになってる感じですね。
スペインやポルトガルやオランダが最初に中米にやってきて金を探した、というのが新大陸への欧州進出の端緒ですので、やはり赤道に近いほうが、より現在的な諸問題にとっては根源的なんですね。
黄金が欲しかった人たちが原住民と交流している間に原住民の習俗と接して、植物や石や工芸品、その他新しい価値を見出してそれを欲しがった、という構図でしょうか。

メキシコのことを考えるとどうしても「あの年」に思いを馳せてしまうのだな。そう、1968だ。
さるぼぼ父にとってメキシコは、以前から興味を持っていた国でした。
東京オリンピックの次に開催されたのがメキシコオリンピック、1968年のことです。
ボブ・ビーモンという選手が走り幅跳びで当時の記録を55センチも上回るジャンプを見せて優勝したり、いまでもかすかに憶えていますよ。
1968年。アメリカ合衆国の国内でもいろいろあった年でしたね。
ベトナム反戦デモの拡大、キング牧師暗殺、ロバート・ケネディ暗殺、流血の民主党大会。
ドアーズ、ジミ・ヘンドリックス、ヒッピー、フラワー・チルドレン。
日本で公開されたアメリカ映画も、「招かれざる客」、「猿の惑星」、「2001年宇宙の旅」、「卒業」と、話題作揃いでした。
閑話休題。
大量の不法移民問題と同時に、いやそれ以上の問題としてあげられているのは、国境をまたぐ麻薬密売組織の暗躍、武器密輸書式の暗躍です。
国境線の警備がゆるいことで、得をするグループが、国境のあちら側にもこちら側にもいるのだ、ということですね。
密輸のためのトンネルがいたるところに掘られているといいますから、壁を築いたとしても一筋縄ではいきそうもない問題がありそうです。
NAFTA解体を目指すと同時に、国連ではっきりアメリカ合衆国の国益第一を打ち出す、ということは?
これまでの鵺的な拡大路線をやめ、国民国家の枠組みで、対等な駆け引きをしていこう、ということでしょう。
ビジネスマンらしいやりかたです。そしてそれは、アメリカ合衆国としては現時点で暫定的に正しいやり方だと思えます。
今日たまたまNHKのBSを見ていたら、トランプ政権発足後のアメリカ一般市民の本音はいかに、みたいな番組があって、取材されていたテキサス国境付近に住むネイティブアメリカンの末裔の人が、とてもいいことを言っていました。
<アメリカはほぼ全員が移民の国だ、そんな移民たちが持っているアメリカン・ドリームというのはそれぞれに違う。アメリカ国民全員に共通するアメリカンドリームなんていうものはもともと幻想なのだ>
アメリカ合衆国歌謡界にもメキシコは棲む。ジョーン・バエズ。
ジョーン・バエズがメキシコ系のアメリカ人だって、知っていましたか?
高貴な出自で、世が世ならば王女様、らしいです。
確かに気高さを感じます。
リオグランデの流れの如き慟哭、フアン・ルルフォ。「いまなら泣いてもいいよ」とやさしく言ってくれ。
小説家では、なんといってもフアン・ルルフォです。『燃える平原』という短編集、『ペドロ・パラモ』という長めの中編があり、いずれも日本で翻訳されています。
この翻訳はたいへん優れたもので、翻訳文学の傑作だと思います。翻訳の良さも加味しているのでしょうが、一時期ちょっとしたブームになった南米文学でラインナップされた大御所メンツよりも、わたしはルルフォが好きです。
いすれも簡単にあらすじをまとめられるようなものではありません。とにかく読んでみないとわかりません。
短いものなので、気に入ったらあっという間に読めます。
どの小説にも河の流れるような悲哀が通底していて、暗くて声にならない慟哭の感銘をおぼえます。


神のものは神に、カエサルの物はカエサルに…。ずうっと昔に誰かが言ったよね?
繰り返しますが、アメリカ合衆国とメキシコ共和国の国境を堅牢にするのはとても良いことです。
メキシコ側からの不法移民流入防止の側面だけが語られますが、逆にアメリカ側からメキシコに移動するもろもろも防止できます。移動するなら今度は公正・透明な国家間ルールにのっとってやらなければなりません。
国家の構成要件の大きな基本は、「国土」と「国民」です。その基本に注力して政治のパワーを動かすことと、「国際」的にアメリカ合衆国が絵に描いたような浮いた(歯が浮く)優等生ぶりを発揮すること。どちらが全世界に好影響なのか?
言うまでもありません。
トランプという人はとりあえず、ヌエ的にますます捉え所のないものとなっていき、実態もみえないままに得体も知れず無限増殖する還元することなき利権や既得権が無定見のまま浸潤することへの防波堤となることを目標としているのでしょう。
現時点で、トランプ大統領は選挙戦での公約を着実に実現するために日々「仕事」をしています。
きわめてまともだと思います。
まあいつ失速し逸脱しちゃうかわかりませんけどね。
なにより、トランプ大統領令が発端で、アメリカ合衆国の内部で正義と自由と平等について、喧々諤々議論し小競り合いになってるこの状況がすばらしいです。
こうでなくっちゃ。アメリカ。
とりあえず、アメリカ国民の生活が第一。
まずは白いひとたちからで、いいから。
八方塞がりの「いま」に穴をあけるために。
頑張れ、トランプ大統領!
2017年の世界は面白くなりそうです。