
もはや財閥系も安泰ではない。社会全体が「ブラック」化?
三菱電機の男性新入社員が、2016年11月に入社8ヶ月で「私は三菱に潰されました」と遺書を残して自殺した件で、両親が三菱電機を相手に提訴したことが話題となっている。
「パワハラ自殺」提訴 三菱電機を新入社員両親三菱電機の新入社員の男性=当時(25)=が自殺したのは、職場の上司や先輩からいじめなどパワーハラスメント(パワハラ)を受けたことが原因として、男性の両親が27日、同社に対し約1億1800万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。近く尼崎労働基準監督署(兵庫県)に労災申請を行うという。
このニュースを聞いて、2015年12月に電通の新入社員だった東大卒の高橋まつりさんが長時間の過重労働を苦に自殺し、その後労災認定された出来事を思い起こして「またか」といった感想を持つ人も多いだろう。
しかし、労働賃金が時間で計られることのない電通のような(一応)クリエイティブ業界ならいざ知らず、財閥系の「三菱」が冠となる、超一流企業であるはずのメーカーの三菱電機でこのような出来事が起こったことに少なからず驚きを隠せなかった。
しかし、たしかに「三菱」という財閥系の冠が付く企業グループの中では、揺るぎないトップ企業である「三菱東京UFJ銀行」という金融機関、戦車や飛行機などの国家の重機を製造している「三菱重工」、財閥系でありながらいまだトップを走り続けている「三菱商事」などの超優良企業に比べて、リコール問題で味噌が付きまくった「三菱自動車」や、いまだ業績回復の兆しが見えない家電メーカー業界の中でもぱっとしない「三菱電機」の内情は、想像するだに「さもありなん」と思えるところもあった。
自殺するくらいならなぜ辞めなかったのか=「いい子」が禍いする構図
しかも、ニュースが伝える内容は驚くべきことに、大学院を卒業してまだ8ヶ月しか経ってなかったというのである。ご両親の哀しみと怒りは想像を絶する。
せっかく育て上げて、(おそらく一流の)大学を卒業し、大学院まで出して、やっと超一流と思える企業に就職したのもつかの間、8ヶ月で自殺してしまったのだから。
高橋さんの事件の時も感じたし、誰もが思うだろうことに「自殺するくらいなら、なぜ辞めなかったのだろう」ということだろう。命取られるようなものではない。仕事というものは。
しかし、両親の証言を見ると「自慢の息子だった」という。さぞかし、両親の期待を裏切らないいい子だったのだろう。
しかし「いい子」というのはずっといい子を演じなければいけないのだろう。退職のほうがよほど両親を悲しませることだとでも思ったのか、自殺する以外、行き場の無かっただろう彼の苦しみを思うと本当に気の毒だと思う。
かつての超一流企業というのはもはや存在しない?のかも。
私の実家の父は某商社に勤めていたこともあって、中学の時に父の海外赴任で住んだ事のある東南アジアの国に同時にいた駐在員たちのコミュニティは、もろ商社や銀行、優良メーカーや大使館員で構成されており、さながら当時の日本社会における超一流企業の縮図だったため、「三菱」といった冠がどれほどの威力を持つものか子供ながらに思い知らされた記憶がある。
(いや、思い知らされたというのは語弊があるが、その時に感じたのは、財閥系がトップ、独立系は所詮、成り上がりという感覚があったのだ)
しかし、それからうん十年、この構造は激変した。そして、私が就職活動していた30年前の人気企業は今は見る影もなくブラック企業化しているところも多い。
あの時、大人気だったIBMやソニー、そして絶対に安泰だったと思われた銀行も、その後、統合再編を繰り返し、元の形や名前を残しているところはほとんどない。
絶対に安泰だと思えた地銀のトップ企業に入社した友達も、その後の統合再編でリストラされてしまい、その後は小さなメーカーに入ったらしいが、あれだけあった銀行も数えるほどに少なくなってしまった。
あなたは統合前の銀行の名前と統合後の銀行の名前、どのくらい覚えてますか?
私は一時期、新卒の採用関係の仕事をしていたのだが、ちょうど金融再編の時期にあたって、とにかく大変だった。入行案内というツールを制作していたのだけど、作ってる途中で名前が変わる、支店が無くなる。どんどん銀行そのものの数が少なくなっていったのだった。
ツールを作る苦労くらいならともかく、統合された本人たちはもっと大変だったに違いない。
その時、メーカーというのは、金融のようなところに比べてのんびりしたものだと、入社案内などを作っていた私は勝手に思っていたのだが、昨今はだいぶ事情が違うようだ。
自殺した彼の所属していた部署はシステム関係だったらしいが、システムという非人間的なものを扱う仕事には非人間的な対応を迫られるのかもしれない。
いずれにしても、すべての企業が数十年前とは変わっている。素晴らしい製品を輩出していた世界に誇る日本のトップメーカーSONYも、メーカーとしての誇りはもう残ってないのか、損保や金融で食べてるらしいし、社内はリストラ部屋などというものも存在するらしい。
私の知り合いのSONYの社員は何人も退職したし、IBMで偉いと言われていた人もとうの昔に外資系の企業に転職した。SONYの友人はNHKでやっていた「実録・リストラ」的な番組を見て、あれはうちの企業ではないか、と語っていた。
それから今、付き合いのあるイラストレーターの男性は、SONYでなんとロボットを作っていたのだという。しかし、ある時、いきなり部署ごと無くなった、と聞かされた時には仰天した。幸い、頭も腕もある彼は今や順調にイラストレーターの道を歩み、かつての大企業からの依頼も増えているようだけど。
労働時間が長期化した?いや、私の職場はなぜか減りました。
「ブラック企業」という言葉が定着しつつあるし、以前からあった「セクハラ」に加え、「パワハラ」という言葉も、妊娠や出産を対象としたハラスメントである「マタハラ」という言葉も、かなり浸透してきた。
これはいい事なのか悪いことなのかまったくわからないし、以前に比べて労働環境が悪化したのか、それともそういう事が社会問題化しただけなのかもまったく不明だ。
私の今の仕事はコンテンツを作る仕事、としておくけど、入社した当時に比べ、労働環境は格段に改善したように思う。昔は徹夜は当たり前、夜の11時には全員が会社に居ることが当たり前だったけど、今では、平日の8時には社内はガラガラになっていることも多いのだ。
しかし、以前ならほぼメーカーなどの優良企業に比べ「ブラックな仕事」とされていた職種なのである。
仕事の内容自体が労働時間と比例して売上が上がるものではないため、一人ひとりが裁量を持たされている。
もちろん、一人ひとりの仕事量は均等ではないが、丁寧に何度も納得するために長時間仕事をする人もいれば、スキルが上がったことに伴って要領も良くなって短時間労働で済むようになった人も多い。
労働時間が減った原因は何か、と考えると、スキルが定着したこと、もう一つはインターネットや技術が進化することによって、圧倒的に物理的にも効率がよくなったのである。
経営者の手腕というよりは、これは外的要因と社員の自力のスキルアップに尽きると断言できるけど、仕事のボリュームはまったく減ってはいない(笑)。
この出来事は、今起きつつある「人材不足」と「売り手市場」の縮図?
「失われた10年」、いや、もう20年くらいになるのだろうと思うが、その間、企業は新卒採用を控えた。そのため、今の30代後半、40くらいの人には正社員になれなかった人も多い。
そのため、40以上の社員と、若い社員との間にぽっかり穴が空いているのはどこも似たような状況ではないのか。
そして少しだけ業績が上向いたのを機に、社員の高年齢化防止と若返りを意図して採用し始めているのだと思う。人件費を抑え、少ない人数で最大のパフォーマンスを上げようとしていたから、相変わらず現場は「人手不足」だ。
それがこの1、2年起きている「売り手市場」の要因だろう。
おそらく、三菱電機も似たような状況だったに違いない。それまで採れなかった新卒を一気に採用したものの、人を育てる余裕も人を育てられる人材もいない。その中で、スキルがない若者は「お荷物」としか取られなかったのかもしれない。
スキルがないなら、量でカバーしてもらうしかない。
カラダで覚えてもらうのだ。
実は私の下にも若者が数名入社してきた。まったく同様の事情での採用なのだが、少人数の中小企業でスキルのないものを受け入れるのは非常にキツイ。
自分の仕事もフルでありながら、まったくできないものを一から手ほどきするのは、本当に忍耐力もいるし、何しろ自分のしごとが1.5倍に増えるに等しい。
しかも現場には教えられる人間もいない。教えた経験もないし、スキルのない若者は自分の仕事を増やす「お荷物」に感じられるのだろう。
まったく同じような状況が自殺した職場で起こっていただろうことは想像に難しくない。
そんな事にならないように、丁寧に未来の会社を担う人材を育てていかなければならない、とこのニュースを見て肝に命じた今日であった。